拉致と決断

塾のこと

最近教材を買うために書店に行ったら、蓮池薫さんの著書「拉致と決断」に目が留まった。
著者紹介の欄を見ると今までに結構多くの著書がある。少しも知らなかった。
今回目に留まったのは、書店がみんなの目に留まるべく場所に山積みにしていたからである。
商魂たくましいと言おうか、今、まさに米朝会談が史上初で行われようとしており、いまだ救出されていない拉致被害者の存在が改めてクローズアップされたからに他ならない。
しかし、その、おかげで、過酷な北朝鮮での暮らしぶりが手に取るようにわかった。
どんな有識者が語るより実際拉致され、何十年も北で暮らした張本人の語る内容にかなうものはない。

少し、話はずれるが、北野武はせっかく大学に合格したのに、殆ど大学にもいかず、また、一人暮らししていたアパートの家賃も払わず、しばらくぐうたらな生活をしていた。
しかし、アパートを追い出されることもなく、大学も退学にはならなかった。
それは、貧しい生活の中、母親が必死で工面して学費も家賃も滞ることなく払い続けていたからである。
実は、蓮池薫さんも中央大学法学部に在籍中に拉致されたが、お父さんが学費をずっと払い続けていたことを以前何かの報道で知った。蓮池薫さんは帰国後復学し無事卒業したとのこと。
当時、拉致されたかどうかもわからない。ただ、消息が途絶えたという事実のみはあった。
きっと、いつかは再び帰ってくるであろうと信じ、学費を払い続けた親の愛情が手に取るようにわかるエピソードだ。

この、拉致と決断の中にもひしひしと親の愛情が伝わる箇所が至る所にあった。
北朝鮮は、資本主義の国ではない。よって、日本の戦時中のように、食料品も含め生活必需品は全て配給だ。しかも、経済制裁などを受けると配給の量は減らされる。
蓮池さんも相当苦しい生活を強いられたようだ。しかし、それでも、一般の北の人に比べれば十分の食糧が配られていたという。何か有事の際の切り札にしたかったのか、人質は生かしておかないといけなかったのかもしれない。
しかし、子供さんが寮生活を始めるころ自分たちにはある程度食料はあるが、寮ではそれほどふんだんに食べ物はなかったらしい。
だから、自分たちの肉や魚をできるだけ食べずに節約・保存し帰宅した際食べさせてやったらしい。育ち盛りの子供たちは栄養が足らず15、6歳でも12、3歳くらいの身長しかない子供たちで溢れかえっていたとか。
蓮池さんは恐怖を抱く。うちの子供たちもそうなるのではないかと。考えぬいた挙句言った大豆を持たせたそうだ。重要なたんぱく源になる。
1日2回、5、6粒必ず食べろと念を押した。次の休みに身長が伸びてくれることを祈るばかりだったと書かれている。

私は、このくだりで、ほうっとため息をついた。
今の日本で考えられるだろうか。飽食という意味ではない。そこまで、真剣に今の親たちは、子供の栄養を考えること、つまり、カロリー計算したり、野菜と肉のバランスなどを考え料理をこしらえているだろうか。
今は共稼ぎが多いし、母親も忙しい。それこそ、塾に行く子が大半だ。部活が終わり、短い間に夕食をとらなければならない。手の込んだ料理などを作る暇も食べる暇もないのかもしれない。けれど、だからと言ってレトルトご飯を茶碗によそわずパックのまま食卓に出してみたり、全てが冷凍食品でまかなうのは愛情がない気がする。
中には野菜をまるっきり食べない子にサプリで栄養とればいいと肉だけふんだんに食べさせた結果肥満になった子もいると聞いた。
子供の将来を考えるのであれば、決して食生活をおざなりにしてはいけないと思う。
乏しい食料の中で自分たちが食べるものを減らし、ひたすら子供の成長を願い毎日コツコツと食料を残していった蓮池さんに頭が下がる。そして、恥ずかしい。
21世紀を担う人材を育てているのだという自負と責任を我々は自覚せねばならないと思う。

プロゼミ 小川

タイトルとURLをコピーしました